エンジニアリングストーリー
Episode2

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名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了。在学中は物性物理学を専攻し、超伝導や絶縁体など、物質が示す多彩な性質の発現機構をミクロな観点から理論的に研究していた。光学フィルタの存在を知ったのがきっかけで、「理論」から「モノ」が生まれる過程に興味を抱き、東海光学の門を叩く。当社のコア技術のひとつ、フェムト秒レーザの光学系で使用する分散補償用ミラーの開発を手がける。

フェムト秒の世界を解くチャープミラー

「よく分からないミラーがあるから、研究してみようか」5年ほど前、技術顧問の先生からの紹介で、このレーザミラーと出会い、その原理の基礎調査をはじめたのがフェムト秒の世界との出会いでした。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、フェムト秒とは1015分の1秒(1000兆分の1秒)という非常に短い時間の単位です。たとえば、光は真空中で1秒間に地球を約7周半進むことができますが、1フェムト秒では光でさえわずか0.3ミクロンしか進めません。そのフェムト秒をつかったレーザというのは、物質のなかのごく短い時間スケールの現象を捉えられる特殊なレーザで、たとえば生体などを見るための多光子励起顕微鏡、細かな加工でバリを出さないレーザ加工機などに使われています。多くは研究機関や一部企業の開発現場で使用され、それに用いられるミラーが我々の開発するチャープミラーです。
数名で研究開発をはじめ、ミラーにどんな機能が必要なのかを調査しながら1年ほどかけてやっと最初の試作品ができました。分子科学研究所の研究員の方など、実際にレーザを使用している方に評価をいただきながら、「もっといいものを作ろう」という一心で開発を続けてきました。現在も実験装置でお使いいただきながら、応用品を開発していますが、レーザ自体が日々進化していくので、その進化に遅れをとらないように開発に取り組んでいます。

誘電体多層膜でパルス形状をコントロールする

さて、このチャープミラーの特徴と機能を少しご説明したいと思います。フェムト秒レーザから発振される超短パルスは、非常に取り扱うのが難しい光で、さまざまな波長の光で構成されています。その光の位相を揃え、このパルスの特徴を十分に発揮できる状態にするのが、このミラーの役割です。

通常、超短パルスの光をレンズに通すと、波長の長い光は速く、波長の短い光はゆっくり進みます。その結果、パルス幅が広がってしまいます。そこで、多層膜ミラーの各層の膜厚をうまく調整し、波長の長い光はミラーの深い位置で、短い光は表層付近で反射するように設計することで、反射後には、すべての波長の光の位相が揃った状態にします(これを分散補償といいます)。パルスの波長帯域や分散補償量などそれぞれの光学系の性質に合わせて、最適なミラーを設計し、成膜するのが私たちの技術です。成膜の難易度も高く、このミラーの製造・販売は、国内でも数社しか実績がありません。
現在では、さまざまな仕様の分散補償に対応したり、紫外域でのチャープミラーを大学と共同研究するなど、応用技術を磨いています。

エネルギーの高い光を出すレーザ用のミラー

上記のチャープミラーとは別に、高出力レーザ用のミラーにも取り組んでいます。その特徴をひとことで言えば、強いレーザ光を照射しても壊れにくいミラーです。光でミラーが壊れるというのは想像しにくいかもしれませんが、この分野では、実際に大きな課題になっており、学会も開催されるほどです。一般に、多層膜ミラーは、入射した光が内部にあるいくつかの界面で透過・反射を繰り返し、互いに強め合うような膜設計がなされており、その結果として100%に近い反射率が得られます。特にこのミラーでは、干渉で強め合った光の電界強度分布も平行して計算を行い、高反射率を保ちながらも、レーザ光の高い電界強度に耐えるように設計しています。
これら多層膜製品への取り組みは、当社の技術力の底上げとなるだけでなく、開発した製品はレーザ光学系全体の性能を左右するキーパーツとして貢献できるものであると確信しています。

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